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酔いどれ|出会った小説:『百年の孤独』

酔いどれ

 小説はちょっと賢く見られたいから読んでいるようなもンだ。ミステリーとかホラーは漫画や映画をみとけばいい。狙い目は芥川賞とかそういう文学的なやつ。年に数冊しか本を読まないンだ、見栄ぐらいはりたい。だいたいはお酒を飲みながら読んで、朝になるとどこまで読んだかなんて覚えていないンだから、その程度。そんなおれでも刺さった小説はある。

中上健次の『岬』だ。いつかの芥川賞だった。おれは関東出身なンで、和歌山は縁もゆかりもない。どうしようもなく、抜け出せない閉ざされた土地の話があることを目の当たりにした。もう、いきなり強盗に手足縛られて、鉄パイプで頭をごちん、とされたような恐怖に近い衝撃だった。

 はじめて小説のことを怖いと感じたし、やべえ(すげえ)と思った。なんせ登場人物のほとんどが血縁関係者なンだよな。考えるだけでゾッとする。あンときだけは、ほとんど酒が進まなかった。

 いつだって缶ビールを二、三本飲んでから日本酒を見据えている。行きつく先は日本酒だ。焼酎は度数が強くて割るのがいやだ。なんでわざわざ、水やお湯を加えたり、氷を落としたりするンだよ。酒飲みはだまって日本酒だ。そんなことを会社の飲み会でくだをまいていると「日本酒は種類によっては加水してますよ」と指摘されたことがあった。

 だまってろ。年下のくせに。おれは細かいことをいちいち刺してくるやつが嫌いなんだ。なにしたり顔で、日本酒のうんちくを語ってンだ。

「そうなんですか! 勉強になりました」と勤め人のおれは一応迎合したけど、腹の中では毒づいていた。

知らねぇよ(関係ないが、ほかにも仕事で使うダブルチェックとかいう言葉も虫唾が走る。間違いは間違いのまんまでいいンだよ)。

 その酒の席で珍しい焼酎があった。『百年の孤独』。社長の差し入れだ。ふざけたセンスだと思った。

マジふざけんなよ。おれのことを馬鹿にしてンのか! と酒が回った。当時(今も)独身のおれへのあてつけか。百年も孤独だったら、それだけで寂しくて死んでしまうわ。

 ところが価値のわからないおれは、その酒が高価なことを知ればとんでもなく美味しいと感じた。

 話はもどるが、それが焼酎『百年の孤独』との出会いだ。小説と出会うのは、もっとのちのこと。

 中上健次の『岬』には続きがあった。『枯木灘』というこれまた常軌を逸した作品だ。

興味が湧いたおれは珍しく調べた。土地にまつわる血の歴史、実話をもとにしているらしい。それはそうだろう、こんな生々しい話が創作のわけがない。そうだとしたら、頭の中がどうにかなってる。

土着の話を他にも読むようになったとき、おれは見栄で小説を読んでいなかった。

だが、酒は相変わらず飲んでいた。缶ビールと日本酒……。それに焼酎。

『百年の孤独』の良さを語ることはできないが、それにたどり着いた道はこんなとこだ。


出会った小説:『百年の孤独』

著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス