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目覚める

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小学校五年になるとき、父の仕事の都合でそれまで六年近く住んでいた千葉県の田舎から、西宮に帰ってくることになった。四歳で通っていた幼稚園を転園しているが、そのころの記憶はないに等しいので、ほぼ初めての転校だった。十歳の私は人見知りも激しく、子供らしい愛嬌もなかったと思う。怖いものなんてなーんにもなかったような千葉時代とは違い、毎日何かしらに怯えながら過ごしていた……ような気がする。

仲良くしてくれた友達が何人かいてくれたため、関西弁が話せないから爪弾きにされたり、存在を忘れられるなんてことはなかった。ちなみに、高校や大学の友達からはよく、「あんまり関西弁強くないよね」と言われていた。自分ではかなり関西に染まったと思っていたが、意外とそうではなかったようだ。

話が逸れてしまったが、私の本好きというのはこの、小学校五年時の転校から始まっている。自分でもきっかけはよく覚えていないのだが、小学校の図書室にも、市立図書館にも、本当によく通った。今でも続いている青い鳥文庫の『黒魔女さんが通る』シリーズや『若おかみは小学生!』、モーリス・ルブランの『ルパン』、アガサ・クリスティの『ポアロ』などを、わくわくしながら読んだ。今となっては話の内容をほどんど覚えていないのが残念なところではあるのだが……。

 小学校を卒業する直前、図書室の司書さん……なのか、ボランティアの保護者の方だったのかわからない人に薦められて読んだのが、『天山の巫女ソニン』だった。これが本当におもしろかった。最近になってコミカライズもしているようなので、よかったら読んでみてほしい。というか、知り合いに小中学生がいたら、ぜひ薦めてください。この『天山の巫女ソニン』と、中学時代に大好きだった『レッドデータガール』シリーズの話で盛り上がった高校の友達とは、今でも定期的にスカイプで話をしたり、旅行に行くほど仲が良い。

 中学校に入学すると、私は吹奏楽部に入部した。毎日がとにかく部活漬けだった。

 あれは忘れもしない、中学二年のとき。同じ部活の友達に、『図書館戦争』を読まないか、と聞かれた。ちょうど、シリーズが連続で文庫化されていたのだ。中学生になり、青い鳥文庫を卒業した私は、だいぶ背伸びをして東野圭吾作品や、当時流行っていたライトノベルを読んでいた。有川浩(現在は有川ひろ)先生のことは恥ずかしながら全く存じ上げていなかった。そのため、特に何も考えず、「貸してもらえるなら読みたい」と友達にお願いしていた。こういっては大げさな気もするが、これが私の人生の転換点だった。

『図書館戦争』はおもしろかった。いや、おもしろいという言葉では何も伝えられていない気がする。ただ、私の持つ語彙では素晴らしさが伝えきれない。恋愛の部分ではときめいたし、仕事の部分では、誇りをもって職務に取り掛かる登場人物たちに憧れと尊敬の念を抱いた。小説は何度も読み返し、今でも同じ部分でにやけるくらいだ。コミカライズも読んだ。アニメも見たし、実写映画も見た。とにかくおもしろかった。

 大抵の思春期の子供はそうなのかもしれないが、当時の私はやたらと鬱屈していた。部活の先輩とはとにかくうまくいかず、しょっちゅう泣いていた。しかも、合奏の最中に涙が止まらなくなったりするものだから、自分でもほとほと困っていたのだ。さらに、勉強しても勉強しても数学やら理科やらのテストの点数が上がらず、最早いろいろなことが万事休す、という状態だった。そんなときに読んだのが、『図書館戦争』だったのだ。こんなにもおもしろい本があるのか、と思った。これを読むために生きていたのか、とも。世の中には、こんなにも心を動かされるものがある。『図書館戦争』を読もうが先輩とは最後までうまくいかなかったし、数学も理科も理解できないことだらけであったが、おもしろいと思える本があるだけで、私の世界は一変した。いつしか、『図書館戦争』を超える衝撃に出会いたいと思うようになっていた。

『図書館戦争』を読んでから十年以上が過ぎた。あれから数えきれないくらいたくさんの小説を読んだ。今回、この原稿を書くにあたって、別の小説にするか迷った。『図書館戦争』はかなり有名な作品だし、もし私のこの原稿を読んで、誰かの読書欲を刺激できるなら、あまり知られていない作品を選んだ方がいいのではないかと。でも、やっぱり私の人生は『図書館戦争』で変わったのだ。それを伝えようと思った。私は今、毎月二十冊前後の小説を読んでいる。好きな作家さんもたくさんいる。東野圭吾作品は今でも好きだ。

 私にとって世界を変えたのは『図書館戦争』だが、これを読んでくれた方にも、そんな出会いがあることを願っている。


出会った小説:『図書館戦争』

著者:有川 浩

RENSさんの読書会には、よく参加させていただいています。 私の文章はなんだかテーマから微妙に逸れている気がしますが、よかったら読んでみてください。 最近は皆川博子さんにドはまりしているしがない会社員です。 よろしくお願いいたします。